人件費率とは?計算方法や適正な目安・業種別平均、改善方法を解説
企業の収益性を把握するうえで重要な指標の一つが「人件費率」です。特にIT・情報通信業やSES企業など、人材そのものがサービス提供の中心となる業種では、人件費率の管理が経営に大きく影響します。
しかし、人件費率は単純に低ければよいわけではありません。人材への投資を抑えすぎれば、採用力や従業員満足度、サービス品質の低下につながる可能性があります。
そこで本記事では、人件費率の意味や計算方法、IT・情報通信業における特徴、人件費率が高くなる原因、改善するための具体的な方法について解説します。
人件費率とは?

人件費率とは、企業の売上高に対して人件費がどの程度を占めているかを示す経営指標です。企業が生み出した売上のうち、どれほどを従業員や役員などに関する費用として支出しているのかを把握できます。
特に労働集約型のビジネスでは、収益性や生産性を確認するうえで重要な指標です。
人件費率は売上高に占める人件費の割合
人件費率は「売上高人件費比率」と呼ばれることもあり、売上高に対する人件費の割合を示します。
例えば、年間売上高が1億円、人件費が4,000万円であれば、人件費率は40%です。
人件費率が高くなるほど、売上の多くを人件費が占めるため、その他の経費や利益に充てられる金額は少なくなります。
一方、人件費率が低ければ必ず経営状態が良いとも限りません。重要なのは、自社の業態や事業構造を踏まえた適正水準を把握し、継続的に管理することです。
人件費に含まれる費用
人件費率を計算する際には、給与だけではなく、人材に関連して会社が負担しているさまざまな費用を考慮します。
代表的なものとして、従業員の給与・賞与、役員給与・賞与、社会保険料などの法定福利費、福利厚生費、退職金などが挙げられます。
財務省の法人企業統計では、人件費を「役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費」として扱っています。
ただし、企業によって管理会計上の人件費の定義は異なります。人件費率を継続的に比較する場合は、自社で対象となる費用をあらかじめ定義し、同じ基準で計算することが重要です。
人件費率の計算方法

人件費率は、売上高と人件費がわかれば簡単に計算できます。
ただし、月次・四半期・年間など比較する期間を統一する必要があります。また、部署別や事業別、プロジェクト別に算出すると、会社全体の数字だけでは把握できない採算性の問題を発見しやすくなります。
人件費率の計算式
人件費率は、以下の計算式で求めます。
人件費率(%)=人件費÷売上高×100
例えば、年間売上高が2億円、人件費が8,000万円の場合は、8,000万円÷2億円×100=40%となり、人件費率は40%です。売上高が変わらないまま人件費が9,000万円に増加すれば、人件費率は45%に上昇します。反対に、人件費を増やさず売上高を2億5,000万円まで伸ばせれば、人件費率は32%まで低下します。
このように、人件費率は人件費だけではなく、売上高とのバランスによって決まります。
IT・情報通信業の人件費率の特徴と目安
IT・情報通信業は、エンジニアなどの人材がサービスの付加価値を生み出すため、人件費が経営に与える影響が大きい業種です。
経済産業省「2025年経済産業省企業活動基本調査(2024年度実績)」では、調査対象企業全体の給与総額は約74.4兆円で、前年の約71.9兆円から3.5%増加しています。
また、給与総額を付加価値額で割った労働分配率は46.6%でした。SES企業では人材の稼働が売上に直結するため、こうした業界統計だけでなく、自社の人件費率や案件単価、粗利率、稼働率を合わせて確認することが重要です。
人件費率が高くなる主な原因

人件費率が上昇する原因は、給与水準の高さだけではありません。売上、生産性、稼働率、業務効率、人員配置など、さまざまな要素が影響します。
人件費を削減する前に、どの要因によって人件費率が高くなっているのかを分析することが重要です。
売上に対して従業員数が多い
売上規模に対して従業員数が多ければ、人件費率は高くなりやすくなります。
特に事業拡大を見込んで先行採用を行った場合、採用直後は人件費が増加する一方、売上への貢献には時間がかかります。
重要なのは単純に人数を減らすことではなく、現在の売上規模や将来の成長計画に対して適正な人員数になっているかを確認することです。
一人当たりの売上高が低い
従業員一人当たりの売上高が低いことも、人件費率が高くなる原因です。
特に人材の稼働時間が売上につながるビジネスでは、非稼働時間の増加や低単価案件へのアサインによって、一人当たり売上高が低下する場合があります。
一人当たり売上高を継続的に確認し、部署や職種、案件ごとの差を把握することが重要です。
残業代などの人件費が増加している
売上が伸びていても、それ以上のペースで残業代などが増加すれば人件費率は上昇します。
長時間労働が恒常化している場合、単純な人手不足だけではなく、業務フローの非効率性や特定の従業員への業務集中などが原因となっている可能性があります。
残業時間だけでなく、どの部署・業務で時間外労働が発生しているかまで分析しましょう。
業務が属人化している
特定の従業員しか対応できない業務が多いと、組織全体の生産性が低下する可能性があります。
担当者に仕事が集中して残業が増えたり、他の従業員が代替できず待ち時間が発生したりするためです。業務マニュアルの整備やナレッジ共有、業務プロセスの標準化を進め、複数の従業員が対応できる体制を整える必要があります。
バックオフィス業務に工数がかかっている
勤怠管理や経費精算、請求書発行、契約管理などのバックオフィス業務に多くの時間を費やしている場合も、人件費率を押し上げる要因となります。
売上に直接つながらない業務だからこそ、効率化が重要です。
システム導入やデータ連携、自動化などを進めることで、管理業務に必要な工数を削減できる可能性があります。
人員配置が最適化されていない
従業員のスキルと担当業務が合っていない場合、本来の能力を十分に発揮できず、生産性が低下します。
SES企業であれば、高い技術力を持つエンジニアがスキルに対して単価の低い案件へ長期間アサインされているケースなどが考えられます。
従業員のスキル、案件単価、稼働率などを把握し、適切な配置を行うことが重要です。
人件費率を改善する方法

人件費率を改善する際、安易に給与や従業員数を減らすことはおすすめできません。
採用競争力や従業員満足度の低下を招く可能性があるためです。「人件費を減らす」だけではなく「同じ人件費から生み出す売上・利益を増やす」という視点で改善を進めましょう。
業務プロセスを見直す
まずは、現在の業務プロセスに無駄がないかを確認しましょう。
重複した入力作業、不要な承認フロー、目的が不明確な会議などが積み重なると、従業員の稼働時間を圧迫します。
業務を一覧化して「廃止できる業務」「簡略化できる業務」「自動化できる業務」に分類すると、改善すべきポイントを見つけやすくなります。
定型業務を自動化する
繰り返し発生する定型業務は、ITツールなどを活用して自動化できないか検討しましょう。
例えば、勤怠集計、請求書作成、経費精算、データ入力、レポート作成などは自動化しやすい領域です。
生成AIやRPA、各種SaaSなども活用しながら、人が行うべき業務とシステムに任せる業務を整理することで、生産性向上につながります。
適切な人員配置を行う
従業員の能力を最大限発揮するためには、スキルや経験に応じた人員配置が重要です。
高いスキルを持つ人材が単純作業に多くの時間を使っている場合、人件費に対して十分な付加価値を生み出せません。
スキル、役割、稼働状況を可視化し、より高い成果を生み出せる業務やプロジェクトへ配置することが重要です。
従業員一人当たりの生産性を高める
人件費率を改善するためには、人件費を抑えるだけでなく、一人当たり売上高を高める方法があります。
教育や研修、ナレッジ共有、業務標準化、ツール導入などによって、同じ労働時間で生み出せる付加価値を増やします。
SES企業では、エンジニアのスキル向上によって、より高単価な案件へ参画できる状態をつくることも有効です。
適正単価になっているか確認する
人件費率が高い原因が、コストではなく「販売価格の低さ」にあるケースもあります。
人件費や採用費などが上昇しているにもかかわらず、数年前と同じ価格でサービスを提供していれば、利益率は徐々に悪化します。
競合価格や提供価値、必要工数、原価などを踏まえて、自社サービスや案件の単価が適正か定期的に確認しましょう。
採算性の低い事業や業務を見直す
売上が発生していても、必要な人件費を考慮すると十分な利益を生み出していない事業や案件が存在する場合があります。
全社の売上高だけを見るのではなく、事業別・顧客別・案件別などで採算性を確認しましょう。
継続的に採算が悪い事業については、価格改定、業務効率化、契約条件の変更、場合によっては撤退なども検討する必要があります。
人件費や稼働状況を可視化する
人件費率を継続的に改善するためには、経営数値を可視化できる仕組みが重要です。
全社の人件費率だけでは、どこに問題があるのか判断できません。
部署別・案件別の売上や人件費に加えて、一人当たり売上高、稼働率、残業時間などを継続的に把握することで、問題のある部署や案件を早期に発見し、改善につなげられます。
SES企業では人件費率の管理が特に重要
SES企業では、エンジニアの稼働によって売上が発生するため、人件費率の管理が特に重要です。
例えば、待機するエンジニアが増えると給与などの人件費は発生する一方、案件からの売上は発生しません。その結果、人件費率が急激に上昇する可能性があります。
また、案件単価とエンジニアの給与・賞与などのバランスも収益性に直結します。そのためSES企業では、会社全体の人件費率だけを見るのではなく、エンジニアごとの単価・人件費・稼働率・粗利などを組み合わせて管理することが重要です。
SES企業が人件費率を改善するためのポイント
SES企業が人件費率を改善するには、「給与を下げる」よりも「エンジニア一人当たりの収益性を高める」という考え方が重要です。
具体的には、案件単価の適正化、高単価案件の獲得、待機期間の短縮、エンジニアのスキルアップ、案件と人材の適切なマッチングなどが挙げられます。
また、営業・採用・労務などの情報を一元管理し、エンジニアごとの契約単価や稼働状況、人件費などを把握できる環境を整えることも重要です。
データに基づいて経営判断できる仕組みをつくることで、人件費率と収益性の継続的な改善につなげられます。
参考: Fairgrit®(フェアグリット) | SES業務が劇的に改善できるSES業界完全特化型の業務効率化SaaS
まとめ
人件費率は「人件費÷売上高×100」で算出でき、企業の収益性や人材の生産性を確認するための重要な指標です。
特にSES企業では、エンジニアの人件費、案件単価、稼働率、待機期間などが収益性に大きく影響します。
単純に人件費を削減するのではなく、業務効率化や適切な人員配置、案件単価の改善、稼働状況の可視化などによって、一人当たりの生産性を高めることが重要です。
人件費率だけでなく、粗利率や稼働率なども合わせて管理し、持続的に利益を生み出せる組織づくりにつなげましょう。

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